Ukraine War and Cypto

ウクライナ戦争で見る仮想通貨(暗号資産)の優位性

ウクライナ戦争の発端

ウクライナは1991年、旧ソビエト連邦が崩壊した際に独立を宣言し、国として誕生した。2019年、ウクライナはNATO(北大西洋条約機構)とEU(欧州連合)への加盟を目指す憲法改正案を可決し、NATOに接近していた。それに対してロシアは強く反発し、2021年から2022年年初にかけてウクライナ国境沿いの兵力を大幅に増強し続け、ウクライナ情勢は緊迫しつつあった。

2022年2月11日、米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)ジェイク・サリヴァンは、ロシアは「いつでも」ウクライナを侵攻できるだけの部隊配備を完了しており、ウクライナ国内にいるアメリカ人は48時間以内に退避すべきだと述べた。さらに北京冬季オリンピック開催中でも、ロシアが攻撃を開始する可能性を指摘した。

「もちろん我々は未来を予言できない、何が起きるのか正確には分からない。しかし、(退避するのが)賢明だと言えるほど、今やリスクは高いし、脅威も喫緊に切迫している」と、大統領補佐官は強調した。

アメリカのほかに、イギリス、カナダ、オランダ、ラトビア、日本、韓国など複数の国は自国民に直ちにウクライナを出国するよう勧告していた。

2月18日、バイデン米大統領はホワイトハウスで記者会見し、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻を決定したのかと問われた際に「現時点で彼は決断したと確信している」と語った。ウクライナの首都キーウ(キエフ)も攻撃対象に含まれていると警告、ウクライナ東部の情勢悪化に強い危機感を表明し、対話を続ける姿勢を示す一方武力衝突への警戒を促した。

ロシア外務省は西側諸国が偽の情報を拡散していると批判していた。ロシアはウクライナとの国境に兵10万人以上の部隊を集結させているものの、侵攻の意図がないと繰り返していた。

北京で開かれていた冬季五輪は閉幕した翌日の2月21日、ロシアは停戦協定を破棄し、ウクライナ東部で親ロシア派の武装分離勢力が実効支配してきた2つの地域について、独立を自称してきた「共和国」を承認した。

そして遂に2月24日の夜明け前、プーチン大統領は「ウクライナからの脅威が常にある中で、ロシアは安心感をもてない、発展もできない。」と主張し、ロシアは人口4400万人の欧州の民主国家ウクライナに陸海空から侵攻を一斉に開始した。ロシア軍はウクライナ各地で都市の中心部を爆撃、空港や軍本部を攻撃、続いて戦車や陸部隊を派遣し、ウクライナ首都キーウ(キエフ)に迫っていた。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が率いるウクライナ軍と国民は徹底抗戦の構えを見せた。

ウクライナ戦争でロシアが受けた制裁

ロシアが独立している主権国家ウクライナを公然に侵攻することは世界を驚かせ、激しい批判を受けていた。またロシア軍の侵攻でウクライナ市民の犠牲は増え続けており、欧米諸国をはじめとする国際社会からはロシアへの厳しい非難の声が上がっていた。世界中の多数の国々はロシアに対して厳しい制裁を課すことを発表し、ロシアは世界から孤立し、経済制裁で大きな打撃を受けている。

金融制裁

米国、欧州連合(EU)、イギリス、日本などの国はSWIFTからのロシア締め出しを発表した。貿易などの送金でも使われる国際的な決済ネットワークSWIFTからの排除は、実質世界経済からの退出を意味する。

ロシア中央銀行の資産凍結、取引禁止や制限などの制裁も課され、仮想通貨も資産凍結の対象となった。資産凍結はロシア中央銀行が通貨安を防衛するための資金を減らすという効果がある。

ロシア中央銀行の外貨準備金凍結が可能になるのは、外貨準備金はロシア中央銀行が保有しているのではなく、他国の銀行に預けているからだ。この凍結で合計で6300億ドルを超えるロシア中央銀行外貨準備金の半分が影響を受けた。

欧州連合(EU)は経済制裁の一環としてロシア国債やロシア企業の格付けを禁止した。そのため、ロシア国債のデフォルトを認定もできず、代わりにデリバティブ(金融派生商品)を扱う世界の大手金融機関であるクレジット・デリバティブ決定委員会は6月1日、ロシア国債が「支払い不履行」に当たると認定した。今回ロシアの支払い不履行は、西側諸国の経済制裁でロシアが深刻な外貨不足に陥っており、米ドルによる返済ができなくなり、契約通りの条件で投資家への利払いなどができなくなった。支払い能力がなくなり債務の返済が不可能になるという通常のデフォルトと異なる。

6月6日、米財務省は金融制裁の追加措置として米国の投資家が「ロシアの事業体が発行した新規および既存の株式と債券」の購入を禁じるという新しいガイダンスを発表した。

ロシアへの輸出規制

米国、欧州連合(EU)、イギリス、日本などの国はロシアへのハイテク製品の輸出禁止、エネルギー等分野の新規投資を禁止するなどの制裁を表明した。これはロシアの軍需産業などに打撃を与え、軍事侵攻を早期に終わらせる圧力になる。

最恵国待遇の取り消し・撤回

ロシアに対して最恵国待遇の取り消し・撤回を表明し、多数のロシア製品に高い関税を課すことになる。

ロシアからの輸入規制

ロシアから原油、天然ガス、石炭などの輸入を禁止または段階的に禁止する。

オリガルヒの資産凍結

オリガルヒとは、ロシア政権に近い立場を利用して巨万の富を築いたロシアの超富裕層を指す。ウクライナ戦争開始前の2022年2月23日時点で、ロシアの超富裕層が保有する総資産は10億ドル、日本円換算後おおよそ1240億円以上でロシアのGDPに占める割合が21%に達していた。

米国、EU、イギリス、日本などの国はオリガルヒの資産凍結を発表した。この超富裕層たちへの制裁を通じてプーチン大統領に圧力をかける狙いだ。

世界各国政府から制裁の他、欧米の民間企業もロシアで事業停止を相次いで踏み切った。VISA、Mastercard、ApplePay、マクドナルドなどはロシアで稼働や営業を停止した。そのため国外旅行中のロシア人はカード決済ができず国に帰ることができないといった報道もあった。

ウクライナ戦争下の法定通貨

ウクライナ・フリヴニャ

ロシア軍の攻撃が始まった2月24日に、ウクライナのゼレンスキー大統領はウクライナ全土に非常事態宣言(戒厳令)を発令した。 これを受け、ウクライナの中央銀行であるウクライナ国立銀行(NBU、中央銀行)は同日、特別体制に入り、以下の一時的な措置を発動したことで、ウクライナ全国に混乱を引き起こした。

  • 現金引き出しの制限
  • 顧客による外貨売却を除き、外国為替市場の停止
  • 特別に許可を得た事業体以外は、外貨による現金引き出しの禁止、及び外貨による国際決済の停止
  • 電子マネーの発行や流通の一時規制

戦争パニックでウクライナの銀行ATMは正常に使用できず、ウクライナの法定通貨フリヴニャが暴落していた。

ウクライナ系アメリカ人、仮想通貨マイニング会社Polaris CapitalのCEO兼創設者Viktoria Foxは戦争が勃発した後、ウクライナの親戚から状況を聞き、以下を語った。

「私が聞いたのは、銀行が閉鎖され、すべてのATMに現金がないということです。戦争開始後の2週間で、私の親戚はほとんどの家庭と同様、完全に現金を使い果たしていました。ウクライナの口座は国際送金を受け取ることができませんでした。」

3月、ウクライナの最大手銀行PrivatBankがフリヴニャによる仮想通貨の購入を一部制限すると業界メディアForklogは報じていた。

ウクライナ国立銀行(NBU)は4月21日、戒厳令下にある同国からの「非生産的な資本流出」を防止し、同国の外国為替市場の改善を図るため、仮想通貨を含む「準現金取引」に関する新たな制限を発表した。自国通貨フリヴニャによる準現金取引は禁止されることとなった。NBU理事会で承認され、4月20日付で発効した。

フリヴニャによる「準現金取引」の取引制限は以下の通り

  • 仮想通貨の購入
  • 電子ウォレット・証券会社・外国為替口座への資金補充
  • トラベラーズチェックの換金

一方、保有外貨による仮想通貨の購入(及び準現金取引)は、月10万フリヴニャ(43万円相当)の制限金額内なら可能とのこと。

ウクライナ戦争は長引く中、ロシア軍の攻撃で経済活動が壊滅的な打撃を受け、為替相場の安定を維持し、物価高騰を抑制するためにウクライナ中央銀行は6月2日、主要政策金利をこれまでの10%から25%に引き上げると発表した。

ロシア・ルーブル

ウクライナ戦争開始後、米国とその同盟国に制裁を課され、ロシア・ルーブルは暴落した。現金不足を懸念するロシア市民らが、銀行ATMに長蛇の列をつくった。ロシア中央銀行は2月28日に預金流出とルーブル安を阻止するために政策金利を9.5%から20%に引き上げたが、3月上旬に一時、通貨ルーブルは侵攻前の半分(1ドル=160ルーブル付近)まで急落した。政策金利の急騰とルーブルの急落でロシアのインフレも高騰、経済の混乱がさらに高まった。

ロシア株式市場は2月24日、ウクライナへの侵攻で33%も暴落した。暴落を止めるために2月28日から約1か月休場し、3月24日から段階的に再開した。

プーチン大統領はドルの海外流出を防ぐため、2月28日に発表された大統領令によると、既存債務の履行を除き「融資契約に関連した」国外への外貨支払いが禁止される。さらに3月1日からロシア在住者にドルなど外貨による海外送金を禁止する措置を発効した。

4月以降、ルーブルが値を戻していることなどが背景で、ロシア中銀は段階的に政策金利を引き下げ、9月16日に政策金利を7.5%に引き下げた。

米・ドル

国際通貨基金(IMF)の第一副専務理事ギータ・ゴピナート氏は、3月31日付のフィナンシャル・タイムズ(FT)のインタビューで、ロシアに課せられた広範な国際制裁は既存の経済世界秩序を断片化する可能性があると述べた。また、米国が実施した経済制裁の結果、米・ドル支配は弱化する可能性が高いと語った。

ロシアに課せられた制裁でドルを回避する貿易取引の増加が予想され、仮想通貨、中央銀行のデジタル通貨(CBDC)、ステーブルコインは、それに応じて採用が増加する可能性があり、基軸通貨であるドルの地位を揺さぶりうる要因になる。

貿易取引でドルの使用が減れば各国の外貨準備高に占めるドルの割合も減る可能性が高い。IMFは最近の報告書で「世界の中央銀行の外貨準備高に占めるドルの割合は、1999年の71%から2021年には59%に減少した」と明らかにした。

ウクライナ戦争でロシア政府が保有する米ドルの外貨準備金が米国の制裁によって凍結された。その結果、他国もドル建ての金融資産の安全性を意識し始め、世界中の投資家は外貨保有のより多様な組み合わせを含む代替資産を探す動機になっている。

米大手投資銀行ゴールドマン・サックスの為替戦略責任者ザック・パンドル氏は、米ドル国際基軸通貨としての役割が今後数年間にわたって低下し続ける可能性が高いと主張した。

ウクライナ戦争下の仮想通貨

ウクライナ戦争開始後の数日にロシアとウクライナ国民からそれぞれの国の法定通貨の安定性に対する懸念で、仮想通貨取引が急増していた。国際通貨基金(IMF)の専務理事クリスタリナ・ゲオルギエバ氏は、仮想通貨の取引増加は戦争に対する結果の1つであると考えを述べた。

ロシア

ロシア・ルーブルによる仮想通貨取引所の取引高はウクライナ戦争開始後1週間で121%増加した。ロシアの仮想通貨取引所にアクセスの大幅増加で、一時システムが停止したこともあった。

ニューヨーク・ポストは2月28日、「ルーブルが崩壊しかねないという懸念からロシア人が急にビットコインを買いだめ始めた。ロシアの金融システムよりビットコインを信頼する人が増えている」と分析した。ロシアのプーチン大統領自身の個人資産も一部ビットコインにしているとも言われている。

ビットコイン価格がロシアのウクライナ侵攻が始まった数日で急騰し、同時にロシア・ルーブルの下落でビットコインは一時、ロシア・ルーブルの時価総額を上回った。

ロシア議会エネルギー委員長のパベル・ザヴァルヌイ氏は3月24日の記者会見で「ロシアが天然資源を輸出するため、ビットコインによる決済を許可する」と発表した。

ロシアのミハイル・ミシュスチン首相は4月7日、1,000万人以上の若者が仮想通貨財布を開設しており、ロシア人は約1300億ドル相当の仮想通貨を保有していると明らかにした。

ロシアの現地メディア9月22日の報道によると、ロシアのアレクセイ・モイセエフ財務副大臣は、国民が仮想通貨を使用して国境を越えた支払いを許可する規則について、財務省が中央銀行と「全体的に」合意したと述べた。ロシアは国内の仮想通貨決済を禁止しながら国際貿易の仮想通貨決済を認める世界初の国になる。

ロシア財務省と中央銀行は仮想通貨を合法的に利用できるようにしないと国際貿易が行えなくなるという認識で一致しているという。ウクライナ侵攻に伴う制裁を受け、米ドルやユーロを必要としない決済の導入を考えており、ゴールド(金)などの資産を裏付けとするステーブルコインを発行することを検討しているとロシアの財務副大臣が明かした。ステーブルコインが利用できるプラットフォームの構築に向け、複数の友好国と協業しているという。

ロイター通信社は9月26日、ロシア下院金融委員会のアナトリー・アクサコフが、来年初頭にデジタルルーブルを導入し、中国との二国間決済に利用する計画だと議会紙のインタビューで述べたと報じた。「もしこれを開始すれば、他の国も暗号通貨の利用を開始し、世界の金融システムに対するアメリカの支配は事実上終わるだろう」と、アクサコフは述べた。

プーチン大統領は11月24日、モスクワで開催されたAI(人工知能)を主題とする会議で講演し、米国など西側による世界金融決済システムの独占を批判し、仮想通貨とブロックチェーン技術を使用した新たな国際決済ネットワークの構築を呼びかけた。プーチン大統領は現在の国際決済システムは手数料が高いことにも言及した。

「デジタル通貨と分散型台帳の技術によって、現在よりも便利で、利用者にとって完全に安全な国際決済システムを構築することができる。最も重要なことは、そのシステムが銀行や第三者による干渉から独立していることだ。」

プーチン大統領はビットコインのマイニングを容認するスタンスを取っており、ウクライナ戦争以来、ロシアのビットコインマイニングパワーは増加しており、2023年第1四半期において、ロシアのマイニングパワーはカザフスタンを抜いて、米国に次ぐ世界第2位に上昇した。

2023年6月2日、ロシア最大の銀行の1つ、ロスバンク(RosBank)は、仮想通貨を利用した新しい国境を越えた支払いシステムを立ち上げていると報道された。ロスバンクはウクライナ戦争で米国の制裁の対象になり、仮想通貨を用いた国際決済システムにより、制裁を回避しようとしている。

ウクライナ

ウクライナ戦争前の2022年2月時点で、ウクライナの仮想通貨ユーザー数はすでに世界のトップ5に入り、ブロックチェーン開発者のコミュ二ティも発達しており、仮想通貨のスタートアップ企業の数も増加していた。仮想通貨の保有者にウクライナの公務員も多く、2021年9月のデータによると公務員や政府関係者らが総額46,351ビットコインを保有していることが判明された。

ロシアの侵攻で金融システムがまひし、ウクライナ人も仮想通貨購入に殺到した。ウクライナでは現金不足で、食料品の購入やタクシーの運賃など、日常生活の支払いにビットコインは現金代替品として機能し始めた。

ウクライナ戦争開始前の2月17日、ウクライナの議会は仮想通貨取引を合法とする法案を承認した。市場の活性化が期待され、ウクライナの副首相ミハイロ・フェドロフ氏は以下のようにコメントした。

この法律は、我が国に新しい事業機会をもたらすだろう。合法的に外国の仮想通貨企業も運営することができ、ウクライナの国民はグローバルな市場にアクセスできるようになる。

そして戦争中の3月16日、ウクライナのゼレンスキー大統領はこの法案に署名し、仮想通貨取引は同国において正式に合法となった。

この法案は仮想通貨の法的ステータス、法的所有権、分類、規制機関を定め、国家証券・株式市場委員会が仮想通貨の監督を担うことにしている。また、ウクライナ国内発および外国の仮想通貨取引所は承認を受けてウクライナで運営可能になり、銀行が取引所等にサービスを提供することが認められる。

今回の法案成立は、仮想通貨がウクライナの法定通貨になることではなく、仮想通貨の保有や取引は国内で法的に保護されることになる。

「仮想通貨戦争」

ウクライナ戦争の裏で「仮想通貨戦争」も進行している。ウクライナ戦争最前線で戦っている両国は、戦争上の優位性を確保するために仮想通貨を利用している。

ウクライナ政府は、ロシア政府の仮想通貨財布を追跡しようとしているが、ロシア側では、同国のハッカーがウクライナの民間金融機関にサイバー攻撃を仕掛け、仮想通貨の保有システムに侵入しようとしていると報じられた。

ウクライナ政府は戦争開始後の2月26日、ロシアと戦う為の戦争資金を仮想通貨による同国への寄付を呼びかけた。ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、テザー(USDT)などの仮想通貨による寄付を受け入れた。

世界最大の仮想通貨取引所バイナンス(Binance)の慈善団体「バイナンスチャリティ財団(Blockchain Charity Foundation)」は2月27日、ウクライナの人道的危機支援のために約1,000万ドル(当時の為替レートで約11.5億円)を寄付することを発表した。

米サンフランシスコを拠点とする大手仮想通貨取引所クラーケンは3月9日、ウクライナのユーザーに対して、1,000万ドル(当時の為替レートで約11.6億円)相当のビットコインを配布することを発表した。法定通貨への引換手数料を無料にするほか、ロシアのユーザーが2022年上半期に同取引所に支払った取引手数料の全額を寄付することも発表した。

3月14日にはウクライナ政府は仮想通貨取引所FTXと提携し、公式寄付サイト「Aid For Ukraine」を立ち上げた。3月15日時点で政府および民間組織による仮想通貨の募金は90億円を超えていた。

ウクライナ政府は3月30日、資金調達を行うため、戦争をテーマとしたNFT(非代替性トークン)プロジェクト「Meta History : Museum of War」をローンチした。ウクライナ兵や同国の国旗、(ロシアによる侵攻で)生じた破壊など「戦争の記録」を題材としており、第1弾は99点NFTの2178エディションが出品され、各エディションが0.15ETH(約6万円)で発売された。

ウクライナ政府は立ち上げた仮想通貨プラットフォームに寄付された資金を使い、軍用車両やガスマスクなどの軍需品を購入している。

ミハイロ・フェドロフ副首相は、5月13日のツイートで全地形対応車(ATV)を5台購入したことを明かし、「困難な状況で重宝する」と述べた。

デジタル改革省副大臣のアレックスボルニャコフ氏は6月21日にツイッターで、3月に寄付された著名NFTコレクションCryptoPunksの1つを売却し、ロシア抗戦の資金に充てると発表した。売却されたのは「CryptoPunk #5364」で、3月にウクライナ政府の公式寄付サイト「Aid For Ukraine」に寄付されたNFTで、売却金額は90ETH(約1,330万円)だった。ウクライナは6月21日時点で、計180億円以上の仮想通貨寄付金を受けていた。

ウクライナの文化情報政策省は7月22日、NFTプロジェクト「Meta History: Museum of War」がNFTの販売で803ETHを調達したことを発表した。当時の価格で総額でおよそ130万ドルに相当する。同省は、その資金の一部がウクライナの文化施設の修復に充てられると述べた。ウクライナの文化施設の多くは、ロシアのミサイル攻撃によって損傷、破壊された。

ミハイロ・フェドロフ副首相は8月18日のツイッター投稿で、寄付サイト「Aid For Ukraine」を通じて、5,400万ドル相当の仮想通貨を集めたと明らかにした。寄付金の支出として、1,180万ドルは無人航空機(UAV)や軍需品などに、690万ドルは防弾チョッキに、380万ドルは野戦用食料に、520万ドルは反戦メディアキャンペーンに、500万ドルは「国防省要請の武器」に費やされた。また、仮想通貨コミュニティに感謝の意を伝えた。

「ヘルメット、防弾チョッキ、暗視装置の一つ一つがウクライナ兵の命を救っている。ウクライナを支援する仮想通貨コミュニティの皆さん、本当にありがとう!」

ウクライナのデジタル改革省によると、「Aid For Ukraine」による寄付された5,400万ドルは、1,870万ドル相当の1万190ETH、1,390万ドル相当の595BTC、1,040万ドル相当のUSDT、220万ドル相当のUSDCで構成されている。

ウクライナのハルキウ美術館は10月13日、NFTコレクション「Art without Borders(国境なきアート)」をバイナンスのNFTマーケットプレイスでオークションに出品したと発表した。「Art without Borders」は美術館が所蔵するコレクションから15点の作品を収録しており、オークションの収益は美術館の運営と「ウクライナの文化遺産の保護」に活用されるという。ハルキウ美術館はウクライナ最古の美術館の1つで、国内外の芸術家の作品を25000点近く所蔵している。

バイナンスのNFT分野を管轄するリサ・ホー氏は、NFTを活用すると、紛争時に安全かつ確実に資金を提供でき、資金提供者に安心感を与えることができると述べた。

ロシア側も、TRM LabsのChris Janczewskiが10月2日のCNBCの取材で、親ロシア派のグループはメッセージングアプリTelegramを通じて戦費の調達を仮想通貨で行っていると述べた。彼は、ロシアが2月にウクライナに侵攻して以来、40万ドル(約5800万円)が調達され、その額は増加する可能性が高いと述べた。

ロシアは仮想通貨で制裁から逃れる?

ウクライナ戦争で、世界各国からロシアへ課せられた制裁を背景に、ロシア・ルーブル建て仮想通貨の出来高が急増したことから、仮想通貨が制裁逃れの手段として利用される懸念が挙がっている。仮想通貨は非中央集権のため、ロシアが欧米からSWIFT遮断などの金融制裁を回避策としても使用される可能性がある。

米財務省は3月1日、仮想通貨を用いた取引も経済制裁に追加した。米国市民がロシア政府関係者と取引することを禁止した。

米FRB(連邦準備制度理事会)のジェローム・パウエル議長は3月2日、ロシアが仮想通貨を利用して経済制裁を逃れる可能性について、急成長している仮想通貨業界に規制の必要性を米議会に呼びかけた。

欧州連合(EU)の財務大臣会合は3月2日、経済制裁を逃れようとするロシアの動きを警戒して、仮想通貨を利用する動きに対策を講じる計画を明らかにした。

ウクライナ政府から、ロシアが仮想通貨で戦争費用を調達する可能性があるので、全てのロシア人ユーザーの取引口座を凍結するよう求めたが、世界最大の仮想通貨取引所バイナンスを始め、多数の取引所が仮想通貨の理念などを念頭に、これに反対する姿勢を表明した。

バイナンス(Binance)は2月28日、「数百万人の罪のない人が被害を受けてはならない。ロシア人の口座を一方的に凍結しないだろう」と発表した。また、チャンポン・ジャオ(通称、CZ)CEOは、現金やダイヤ、金(ゴールド)など「制裁を逃れる手段は無数にある」と指摘し、ブロックチェーン業界からも仮想通貨だけを”特別”扱いするべきではないと述べた。

米大手仮想通貨取引所コインベース(Coinbase)のブライアン・アームストロングCEOは「一部の普通のロシア人は法定通貨が崩壊した今、生命線として仮想通貨を使用している。彼らの多くはロシアの侵攻に反対している。仮想通貨取引禁止は彼らを傷つけるだろう」と話した。

同社のポール・グレワル最高法務責任者は3月7日、仮想通貨はまだ新しい技術で、制裁回避に利用されることもありえると指摘したが、従来の金融システムに比べて仮想通貨の取引はパブリックブロックチェーンに永遠に記録されるため、追跡しやすいと主張した。プライバシー保護との両立は課題だが、個人を尊重した政策の枠組みを構築することで、コインベース(Coinbase)は両者のバランスを維持していくことができると述べた。グレワル氏は『制裁遵守を促進するための仮想通貨技術の利用』というタイトルのブログで、独自の調査等にもとづいて、コインベース(Coinbase)が違法活動を行っていると判断したアドレスをブロックし、そのアドレスを政府に報告したと述べた。同社は本人確認手続き(KYC)の実施や制裁リストの更新などの取り組みで、経済制裁を遵守し、既にロシアの個人や企業に関連する2.5万超のアドレスをブロックしたことが明らかになった。

バイナンスも4月より、欧州連合(EU)のロシア政府に対する経済制裁に準拠して、ロシア在住者などの取引口座を一部制限した。また、ロシア高官の親族に関連する複数の口座を閉鎖したとも発表した。

欧州連合(EU)は10月6日、ウクライナ侵攻を背景としたロシアへの制裁について8回目の追加措置を発表した。ロシアが制裁を回避するのを防ぐために、暗号資産(仮想通貨)に対する制裁も強化している。この措置は、ロシアが「偽りの住民投票に基づくウクライナ領土の併合を行おうとしていること」や「追加軍を動員したこと」などを受けたものだ。

仮想通貨に関しては、金額にかかわらず、ロシアの個人や企業へのウォレット、アカウント、カストディサービスのすべてが禁止されることになった。これまで、これらのサービスについて約140万円(1万ユーロ)までは制裁対象から外れていたが、今回金額的な条件は撤廃された形だ。

これにより、ヨーロッパで事業を展開しているBinanceやCoinbaseなどの一部の主要な取引所は、ロシアの個人や企業へのサービスを制限することを余儀なくされている。Kraken、Crypto.com、Blockchain.com などの他の取引所も、ロシア市民への仮想通貨サービスの提供を停止した。

このように仮想通貨取引所を通じた売買を禁止するなど、政府がビットコインの動きを制限する方法はあるが、非中央集権のため取引所に管理されていないオンチェーンウォレットに保管されたビットコインは、押収、凍結することはできない。

世界各国は仮想通貨業者とロシアの制裁対象業者(個人、銀行、その他事業体など)間の取引の検出・監視を強化するために、ブロックチェーン分析ツールを導入している。ブロックチェーン分析企業チェイナリシスの担当者によれば、現段階ではロシアによる経済制裁を逃れるために仮想通貨の利用(大型送金)は確認されていない模様だ。仮想通貨やブロックチェーンの透明性と、ルーブル建の取引ペアの流動性が不足している点など、実際にロシア政府は仮想通貨を使って資金を調達するのは極めて難しいという。

ウクライナ戦争で見える仮想通貨の優位性

ウクライナ戦争では、危機時に国が管理する法定通貨の脆弱性と仮想通貨の優位性が明白に示された。現代各国政府管理下の通貨は価値の裏付けるものがなく、ただその政府の信用で支えられている。国民はその政府に不信になると、その国の通貨も正常に機能しなくなる。国は必要な時に国民が所有する法定通貨の凍結や出金制限をすることも可能である。

対照的にビットコインは政府の管轄外にある中立的なグローバル決済システムで、政府の権力と恣意的な決断に影響されない。危機時でも国境を越えて数十億ドルの資金を迅速に移動でき、各々の国の状況に影響されず機能し続ける。

ウクライナ戦争でロシアとウクライナの法定通貨の暴落や出金制限などの混乱が起き、国民は伝統の通貨と銀行システムに対する懐疑心を持ち始め、代わるものを必要とすることに気付き、ビットコインなどの仮想通貨に殺到している。今回の混乱をきっかけに、仮想通貨は危機時の可能性が示され、真の価値が証明され、存在感が一層高まった。一時暴落したロシアのルーブルが崩壊する可能性もあると対照的に、ウクライナが内外からの寄付を受け入れる手段として仮想通貨を利用することで、世界は法定通貨の脆弱性と仮想通貨の優位性を改めて認識させられた。

資産運用世界最大手のブラックロックのラリー・フィンクCEOは、価格が乱高下しやすい仮想通貨にこれまで懐疑的だったが、「ウクライナ危機が従来型の通貨に依存している現状を見直すきっかけとなる。国際取引の決済手段として仮想通貨の普及が加速する可能性がある」と考えを改めた。

ウクライナに拠点を置く仮想通貨取引所KUNAの創設者マイク・チョバニアン氏は、仮想通貨コミュニティからの寄付により、ブロックチェーン技術が国民国家に影響与えることができることを示し、必要な時に「グローバルセキュリティのバックボーン」として機能することができると述べた。

ベスト&ロングセラー本「金持ち父さん・貧乏父さん」の著者ロバート・キヨサキ氏は3月16日、ツイッターでビットコインと戦争について以下を述べた。

「ルーブルが暴落した後、多くのロシア人がライフラインとしてビットコインを使用していると報じられている。ウクライナ人の13%、ロシア人の12%、アメリカ人の8%は仮想通貨を所有している。ウクライナとロシアの戦争では、政府の”偽”の法定通貨よりも安全な避難所として仮想通貨が浮上した。」

4月19日発表された国際通貨基金(IMF)のグローバル金融安定性報告書によると、パンデミックと戦争で、新興市場で仮想通貨の普及が加速した。今回ロシアに対する経済制裁で、他国もドルの支配、米国主導の金融システムから逃れ、インフレに強い、非中央集権のビットコインの普及が加速し、ビットコインを準備通貨や法定通貨として採用する国も増える可能性が高まっている。

米ドルは60年以上にわたり、世界の基軸通貨だったが、現在ドルの国際的な役割を損なっている。世界の外貨準備高に占めるドルの割合は、1970年代に約85%でピークに達し、2021年は60%を下回った。他国が他の代替通貨に移行するにつれて、今後数年間にわたって減少傾向が続くと予想され、米ドル覇権の終焉と新しい国際通貨へ移行の加速で通貨の歴史における大きな転換点になりうる。

新しい国際基軸通貨の候補として、ビットコインなどの仮想通貨はどの国の管理下でもなく、中立の国際通貨として米ドルを置き換える可能性を大いに秘めている。

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